オットーリンク・メタルのヴィンテージの見分け方

またマウスピースのお話。

サックスは楽器やマウスピースなど、いろいろなもので「ヴィンテージ」の物が好まれることがあります。とりわけ、ジャズの世界では、半世紀以上前の巨匠らが使っていた楽器・マウスピースから出てくるサウンドを求めて、そうした巨匠らが使っていたのと同じ、何十年も前の楽器・マウスピースを愛用しているプレイヤーがたくさんいます。そして、当然そうした今はもう作られていない楽器やマウスピースも、現行品の新品以上の高値で取引されています。

さて、私が演奏活動で使っているテナーサックス(セルマー シリーズ2)は3年ほど前に中古で購入したものです。この楽器の製造年は30年ほど前。シリーズ2は時代と共にマイナーチェンジを繰り返してはいますが、今でも製造されていて、ヴィンテージとは言われません。
この楽器を購入した時、前のユーザーの方が使っていたオットーリンクのメタルマウスピースも一緒にいただきました。このマウスピースを愛用したオットーリンク初期の巨匠ジョン・コルトレーン以来、ジャズ・テナーのマウスピースの代名詞となっています。普段はクラシックを中心としたサクソフォンプレイヤーとして、ラバーのマウスピース(テナーはセルマーS90-180)を使っている私は、そのマウスピースをずっと自宅の棚の中に仕舞い込んでいました。

先日、そんなオットーリンクのマウスピースが棚の中から出てきました。改めてそのマウスピースを見てみると…どうやらアーリーバビット、いわゆる“ヴィンテージ”マウスピースだったのです!

オットーリンクは、ジャズ・テナーで最も人気のマウスピース。中でも「ヴィンテージ」ものは多くの人を虜にしています。メタルマウスピースだと、
・オットーリンクのマウスピース製造がニューヨークで始まった「ニューヨーク」期(1930年代〜1950年半ば)
・オットーリンクがフロリダに移転した時代の「フロリダ」期(1950年半ば〜1970年代半ば)
・インディアナ州・エルクハートのバビット(JJBabbitt)社に買収された初期の「アーリーバビット」期(1970年代半ば〜1980年頃)
と、大雑把に3つの区分に分けられます。実際には、さらにモデルや刻印の特徴で分けることができます(以下の特徴は、特にテナーサックスでのもの)。

①マスターリンク(Master Link)(1931〜1935・ニューヨーク)
オットーリンクがニューヨークで創業し、最初に製造したモデル。リガチャーが、マウスピース下部にリガチャーをはめ込んで使うリガチャーとマウスピース一体型(一体型ではないリガチャーもつけることは可能)。「Master Link」の刻印があります。

②フォースター(four ☆☆☆☆)(1935〜1940・ニューヨーク)
マスターリンクの設計を引き継ぎつつ、リガチャーは一体型ではない、現行のものと似たリガチャーのデザインとなりました。マススピースには「four ☆☆☆☆」の刻印があります。マスターリンクやフォースターはベン・ウェブスターらが愛用し、独特の渋いサウンドを作り出しました。

③トーンマスター(Tone Master)(1940〜1949・ニューヨーク)
ジョン・コルトレーンの使用で有名なマウスピース。そのサウンドによって、オットーリンクは現代までジャズ・テナーのサウンドを代表するマウスピースになりました。トーンマスターはマウスピース上部に、現在のスーパートーンマスターと同様のリガチャーを固定する凸部分が付けられています。シャンクにTone Masterの刻印があります。このトーンマスターからアーリーバビットに至るヴィンテージマウスピースは現代でも人気が非常に高く、中古取引の際には10万円から20万円を超えることも少なくありません。

④スーパートーンマスター(Super Tone Master)ダブルリング・ニューヨーク(1949〜1955・ニューヨーク)
現代まで続く「スーパートーンマスター」のモデルの登場。ダブルリングという名前は、シャンク部分の上部に2本のラインが掘られ、その下に「Super Tone Master」と刻印されているため。ニューヨークで作られたダブルリングは、シャンクのテーブル側に「OTTO LINK Co. NEW YORK.N.Y.」という刻印があり、オープニングの番号の刻印がテーブル部分に刻まれています。より時期の早いものは、ティースガードが大きく、後期のものはティースガードが小ぶりになります。状態が良いと、20万円を軽く超えて取引される人気が高く貴重なマウスピースです。

⑤スーパートーンマスター(Super Tone Master)ダブルリング・フロリダ前期(1955〜1965・フロリダ)
ニューヨーク期のダブルリングと基本的には同じですが、見分けるポイントは、ニューヨーク期についていたシャンクのテーブル側のNEW YORKの刻印が無くなり、オープニングの番号の刻印がマウスピースの側面になっているところ。

⑥スーパートーンマスター(Super Tone Master)フロリダ前期(No USA)(1965〜1967・フロリダ)
シャンクの「SUPER TONE MASTER」の刻印の上下に、現在同様ラインが1本ずつ入ります。ただし、シャンクのテーブル側にU.S.A.の刻印はありません。ダブルリングのフロリダで製造されたものと、このUSAの刻印のないものが、フロリダ前期と称されることが多いです。

⑦スーパートーンマスター(Super Tone Master)フロリダ後期(USA)(1967〜1975・フロリダ)
このフロリダ後期に製造されたものになると、シャンクのテーブル側に「U.S.A.」という刻印が入ります。1975年にJJBabbittに買収されたあとのアーリーバビット、そして1980年代以降のヴィンテージではないものと見分けるポイントは、オープニングの番号がマウスピース側面に入っていること、そしてその刻印のサイズが1.6mmのサイズで刻まれていること。

⑧スーパートーンマスター(Super Tone Master)アーリーバビット(1975〜1980年頃・インディアナ)
オットーリンクのヴィンテージと呼ばれる最後が、アーリーバビット(Early Babbitt)。インディアナ州・エルクハートのJJBabbittに買収された初期のものになります。この買収初期のものは、フロリダ期までの製造クォリティーが引き継がれています。フロリダ後期のものと見分けるポイントは、マウスピース側面のフォントが、フロリダ後期のものより大きい(2.4mm)であること。ちなみに、その後、ヴィンテージと呼ばれない現行のものになると、オープニングのフォントはシャンク部分、U.S.A.の刻印の下に入るようになります。
なお、ニューヨーク、フロリダ、インディアナとオットーリンクの拠点が変わると、その時々で箱に印刷されていた住所も変わっています。ただ、JJBabbitt社傘下になった直後のマウスピースは、フロリダ期の残っている在庫であろう、フロリダの住所が入ったマウスピースの箱に入ったものもあります。

今では、これらのヴィンテージマウスピースを復刻したものもありますが、技術的なものか、はたまた材質的なものなのか、どうしても音色は当時と同じにはなりません(私はこれまでオットーリンクを使うことが無かったので、いまいちその感覚までは掴みきれていないのですが、確かにヴィンテージの音は違う!)。もちろんヴィンテージの中でも全部同じというわけはなく、オットーリンクのメタルマウスピースの場合、マスターリンクとフォースターは設計がかなり現代と違うので比較しにくいものの、トーンマスターからアーリーバビットにかけて、段々と音が明るくなっていく傾向があるようです。さらに、状態や元々の個体差で、品質にはばらつきがあるのも事実。

でも、その奥深さはまるで、300年前の楽器の完璧な再現が今でも難しいと言われる、ヴァイオリンのストラディヴァリウスのよう。これもサックスの魅力なのかもしれません。

(余談ですが、管楽器のマウスピースでここまで「ヴィンテージ」が人気があり、高値で取引されるのって、サックスくらいのようです。先日、他の楽器のプレイヤーと話をしながら、ふと気がついたことでした。)

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