eldon by Antiguaという楽器

Huitでのレッスンを行うようになって間もなく1年が経ちます(とても大変な1年間でしたが…)。普段のレッスンでは、私は神奈川の自宅からメインで使っている楽器(ソプラノ: H.Selmer/Serie III、アルト:H.Selmer/Serie III、テナー:H.Selmer/SA80 Serie II、バリトン:H.Selmer/Serie III)を長野に持ってきてレッスンの際は使用していますが、Huitの備品にしているアルトサックス:H.Selmer/SA80 Serie IIを使用することもあります。

この度、Huitの備品を、アルトサックスに加えてテナーサックスも準備しました。そのテナーサックスがアンティグア・ウィンズ(以下、アンティグア)というアメリカの楽器会社(製造は台湾)の作るエルドンというモデルです。

このエルドン、何がすごいって、とにかく安い!ノーブランドのものをはじめとする中国製のサックスなら、テナーで10万円以下のものもあります。ただし、こういう楽器はものにもよるものの基本的には価格相応の品質で、上達を目標とする人には、私は基本的にお勧めしていません。日本のH.Selmerの総代理店で信頼も厚い野中貿易が、この価格帯から楽器を出すということに、発売当初、衝撃を受けました。

同じアンティグアの「スタンダード」モデルは私も試奏したことがあり、生徒さんが楽器を購入する時に予算との兼ね合いでお勧めしたこともあります。ただ、この「エルドン」モデルはこれまで実物に接したことがありませんでした。さて、どういうものなのか?ネットでも、いまいち明確な情報が無かったので、少しばかり書いてみたいと思います。

アンティグア・ウィンズというメーカーと、エルドンというブランド

アンティグア・ウィンズというメーカーは、1991年にアメリカ、テキサス州のサンアントニオに設立された会社だそう。日本では、セルマーの総代理店としても知られている野中貿易がサクソフォンを輸入しています。サクソフォンのプロフェッショナルモデルのほか、教育用の廉価なサクソフォンとその他の木管楽器・金管楽器も発売されています。日本では、その中の一部のサクソフォンが発売されているようです。

メーカーウェブサイト Antigua Winds
輸入元の紹介サイト 野中貿易株式会社

ただ、アメリカのアンティグアのメーカーサイトには、エルドンというブランドの掲載はありません。エルドンというブランドは、アンティグアによって楽器を初めて持つ人のために2006年に立ち上げられたブランドのようです。日本ではサクソフォンのみの取り扱いですが、アメリカではその他の木管・金管・マーチング用楽器のラインナップもあり、サクソフォンは、日本では取り扱いのないストレート管のソプラノサックスとバリトンサックスのラインナップも掲載されています。

エルドンウェブサイト eldon by Antigua

ここで、今回用意したエルドンのテナーサックスとアメリカのエルドンの紹介を見比べると、手元のエルドンのテナーサックス(日本のカタログ上で1モデルのみ)の刻印がETS-28となっている一方、アメリカのサイトではテナーサックスのエルドン(こちらも掲載されているのは1モデルのみ)の型番はETS-22となっており、キーの形状も若干違っています。日米で発売されているモデルに若干の違いがあるようです。

エルドンのすごいところ

さて、そんなエルドン(ETS-28)のテナーサックスを私は手に取りました。率直な感想は、10万円以下のテナーサックスとは思えない機能・構造にビックリ!

楽器全景

パッと見ただけだと、彫刻も入っていて、10万円を切る価格帯の楽器には見えません。写真のマウスピース・リガチャーは付属品ではなく、私がもともと使っているものです。

ネック周りと楽器上部

ネックにはロゴなどはついていません(寂しいから、何かつけようかな)。
ネックスクリューのピッチは0.7mmで、ヤマハと同じです。セルマー・ヤナギサワ対応の円柱ネジなどは付けられません。サムレストはプラスチック製。
そして、特筆すべきは針バネ。キーが元の位置に戻るために必要な細長い金属ですが、下位機種に多くある太さが均一な針バネではなく、キーを押した時の反応の良く上位機種に多い、先端が細い形状になっていることに驚きました。

本体真ん中辺り

2番管とベルをつないで支える支柱は三点支持。左手小指のテーブルキー、LowC♯-LowB♭のシーソー式の連結が採用されています。

楽器下部

右手の運指の配置は比較的コンパクトなので、手の小さい人にも良さそうです。サムフックはプラスチック製で位置調整ができる可動式。楽器全体のタンポはメタルブースターで音のレスポンスはGoodです(私はメタルブースターが好みです)。

手彫り彫刻

正直、一番感動しました。10万円以下なのに、手彫り彫刻が入っています。彫りの深さがとても浅いのはご愛嬌。ベルの朝顔の部分と1番管にまで彫刻が入っています。

それでもちょっとだけ困ったところ

全体的には、この質がこの価格で!と、とっても驚きました。が、ちょっとだけ困った(?)部分はありました。

楽器の置き方

楽器を置くときはテーブルキーやサイドキーに楽器の重さがかかって、キーが曲がったりするのを防ぐために、写真の向きで楽器を置きます。
しかし、エルドンの楽器(写真1枚目)はその向きで置いても、楽器を支える場所の1点が右手サイドキーのC3になってしまいます。
2枚目の写真は私のセルマーのシリーズ2。きちんとキーポスト(支柱)2箇所とベルで楽器を支えています。
楽器を置く時にはとにかく丁寧に、できたらケースやスタンドに置く、というようなことを心がける必要があります。

細かな傷と大雑把なパーツ

写真ではわかりにくいですが、高額な楽器に比べると、新品でも傷などが若干多いように感じます。また、ネックスクリューやネックのオクターブキー、左手小指のCキー、D♯キーなどが厚みがあったり角ばっていたりと、一般的な楽器(日本製やフランス製のもの)に比べると少しだけ大雑把な印象は受けました。

調整の必要性

全ての楽器に共通して言えることなのですが、新しい楽器を購入する時には、良い状態に調整してもらうことが大切です。今回手にした楽器も、実際に手に取って試奏した後、キーの開きなどをより良い状態にして調整してもらいました。最廉価モデルなので、楽器屋さんでいくつもの楽器を選定することは難しいかもしれませんが、値段の分だけ、もともとの楽器の状態・バランスも大雑把なことがあります。特に、もしも楽器を初めて間もない人がこのような楽器を買う際は、先生などに試奏してもらって調整してもらうことが大切です。

総じて

私の演奏活動で使用するメインのテナーサックスは変わらずセルマーですが、レッスンなどで使用できるテナーサックスもHuitに常備できる形になりました。
それにしても、ヤマハやヤナギサワの上位モデルの希望小売価格が40〜50万円以上、私の使っているセルマーのシリーズ2の現在の希望小売価格が70万円ということに対して、10万円以下の楽器でもこれだけの品質があるということに、驚きと共に複雑な気持ちも…。
楽器そのもののポテンシャルと懐の深さは高価な機種には及ばないものの、そのコストパフォーマンスに色々な可能性を感じた楽器でした。趣味でサックスを始める人にも、上達した時の買い替えを視野に入れれば、十分おすすめできそうです。そして、私のようなプライベートレッスンをおこなったり、音楽教室などでの備品にする楽器としても、とても適していそうです。

私もこのエルドンのテナーサックスを、Huitでのレッスンの相棒として、お値段以上の価値を引き出していきたいと思います。

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